牛乳は身体に良くない?〜牛乳は子牛が飲むもの35年前の警鐘

「牛乳の摂取によって、子どもには鉄欠乏性貧血が起こる。乳乳不耐性の人には下痢やガスが溜まることでの腹痛が起こるが、様々なアレルギーの原因にもなる。心臓や血管の病気の原因となっている可能性も高い。子牛は牛乳を飲んで育つ。牛乳は子牛のためにあるものなのである(2p141)。
牛乳は母牛の血液を越したものに他ならない。したがって、牛乳を飲むことは母牛の血液中に含まれる物質を飲むことを意味する。それには、子牛の成長や感染防御に欠かせないたんぱく質も含まれている。もちろん、これらを子牛が飲むことは理にかなっている(2p108)。つまり、牛乳はもともと牛がその子どもに一定期間だけ与えるものであったのだが、人間はそれを横取りした(2p44)。けれども、人間がそれを飲むとどのような影響があるのであろうか。ロカボ食の問題点は、脂肪の種類を問わず、とりわけ、牛乳や乳製品の摂取を制限していない点である(2p138)。
乳糖の問題
人類の3人に2人は乳糖耐性を身につけていない
ホモ・サピエンスは、20万年前にアフリカに出現したが、それ以降、ほとんど変化が見られない。すなわち、現生人類のバージョン1.0が出現して以来、アップグレードされていない(4p25)。もちろん、例外もある。マラリアに耐性を示す鎌状赤血球や乳糖耐性である(4p27)。
乳糖(ラクトース)は母乳に含まれる(1p226)。そこで、牛乳から栄養分を摂取するには、それに含まれる「乳糖」を消化する酵素「ラクターゼ」が必要であ理、どの哺乳類も赤ん坊のうちは体内で乳糖(ラクトース)を分解する酵素、ラクターゼ(ラクテース)を作れる(1p226,2p44,4p99)。人間の赤ん坊を含めて、どの赤ん坊もラクトースを消化でき、母乳で生きることができるのはこのためである。けれども、この遺伝子は幼少期を過ぎればスイッチが「オフ」となる。ラクターゼを作る必要がないからである(1p226,2p45)。そこで、大人になるにつれてラクターゼは減少し、乳の消化能力は衰えていく。これは、日光が降り注ぐ故郷アフリカに人類の祖先が居住していた頃には問題はなかった。けれども、日光を十分に浴びることができない地域に移住した人はビタミンD欠乏症に陥ることになった(4p99)。ビタミンDは日光を浴びることでも得られるが、乳からも得られるからである(4p100)。
一方、新石器革命が進む中で、ヒトの一部の集団は家畜を飼育し始めた(1p226)。そして、乳製品が食事の一部となったのは、動物の家畜化に成功した1万から5500年前とごく最近である(2p138)。それとともに、牛乳に含まれるラクトースに関しては、ヒトは「ラクターゼ持続症」と呼ばれる特質を進化させてきた(1p225)。それに合わせて、死ぬまでこの遺伝子を「オフ」にしない持続症を獲得した(1p226)。乳糖耐性を持ったのは約8000年前と推定されている(2p45)。それは、中東で現れてから2000年ほどでヨーロッパ中の人々もラクトースを消化できるようになった(1p226)。ヨーロッパでは約90%の人々が変異したラクテース遺伝子を持つ(2p45)。他地域でも、ヤギを買うエジプトのベドウィン族や牛を飼育するルワンダのツチ族が別の突然変異を通じて「ラクターゼ持続症」を獲得した(1p226)。
こうした突然変異によって、全人類の約3分の1が乳糖(ラクトース)を消化する能力を持つ(4p99,4p100)。すなわち、現在、ラクトース遺伝子が幼児期以降もオンになっているのは、中東の人々、ヨーロッパ人、東アフリカのツチ族等の牧牛部族だけである。そして、アジアやアフリカ系の人々を中心に、現代人の約65%は、「乳糖不耐症」のため、牛乳を飲むと下痢をしたりガスが出る等、腸に異変が起きる(2p45)。
乳糖は白内障を引き起こす
牛乳に含まれる乳糖は、腸の消化酵素ラクテースによって、ショ糖、ブドウ糖、ガラクトースに分解されるが、乳乳とガラクトースは、初期の白内障の形成に深く関与する。ウサギ、ネズミ、ブタ、モルモットを用いた実験から、牛乳を多く含む餌を与えると白内障になることが明らかになっている(2p144)。
牛乳に含まれるタンパク質が引き起こす様々な病気
絞ったばかりの牛乳を放置しておくと上部にクリーム層、脂肪球ができる。脂肪分が分離しないように、これを粉々にして成分を均一にすることを「ホモジナイズ」と呼ぶ。ホモジナイズすれば、工場での高温殺菌等の熱処理が円滑に進む。さらに、脂肪球が粉砕されるために、脂肪膜に保護されていた乳糖や各種たんぱく質もよく消化吸収される。けれども、ここに問題がある(2p109)。
牛乳はアレルギーと乳児疝痛を引き起こす
1〜3歳までの子どもの2〜3%には腹痛、下痢、蕁麻疹、喘息、乳児疝痛等のアレルギーが認められる。乳児疝痛とは、生後3カ月までの乳幼児が1週間に3日以上、1日に3時間以上激しく泣き続ける現象で、原因が不明であるために困り果てた親がキレて乳児虐待の原因にもなってきた。しかし、現在ではこの乳児疝痛の原因は、牛乳に含まれる乳清(ホエー)であることが判明している。妊婦が牛乳を飲んで授乳した場合でも生じる。そして、牛乳を与えるのを止めれば、9割が治るのである(2p145)。
牛乳はリーキガットを引き起こす
こうしたたんぱく質はホモジナイズや高温殺菌では壊れない。さらに、これらの分解酵素を阻害する物質、プロティネース・インヒビターもあるため、人間の腸の消化酵素では分解されない(2p109)。牛乳には成長ホルモン、ステロイドホルモン、人間の体に働きかけるたんぱく質やペプタイドが含まれている。これらは人間の腸粘膜で反応し、新たに形成されたパプタイドとなる(2p108)。
しかも、牛乳に含まれるキサンチンオキシデースはリーキガットを引き起こす。血液中に入り込むため抗体を作らせる(2p107,2p146)。リーキガットな状態では、これらが血液内に入ってくる。分解されていないたんぱく質は異物として認識されるため、アレルギー性の病気や自己免疫疾患を引き起こす(2p109)。
抗体は、抗源となったキサンチンオキシデースだけでなく、それと似た組成を持つ組織、動脈細胞や関節を攻撃する。このため、こうした部位で慢性炎症が起き、動脈効果や関節炎が起きてくる(2p107,2p146)。
牛乳のカゼインが喘息を起こす
牛乳を温めた時に表面にできる膜、カゼインもリーキガットが生じていると、肺や気管支の粘膜細胞を刺激して粘膜を過剰に分泌させ、気道を狭くし喘息を引き起こす(2p110)。
牛乳の女性ホルモンが癌を引き起こす
牛乳に含まれる女性ホルモン、ステロイドホルモンの一種、エストロゲンの主な成分は「硫酸エストロゲン」である。女性の場合、卵巣癌を発症するリスクが高まり、男性では前立腺癌と精巣癌を発症するリスクが高まる(2p113)。
牛乳のインスリンがI型糖尿病を引き起こす
母乳を由来とするインスリンは子どものI型糖尿病を引き起こす。5歳までに牛乳や乳製品を摂取するとI型糖尿病となるリスクが高いことが疫学調査からも明らかになっている(2p111)。
2005年に24名の8歳の男の子を、大量に牛乳を摂取するグループと大量に肉を摂取するグループに分け、7日後のインスリン反応を調べる研究がなされた。その結果、肉を摂取したグループには変化が見られなかったが、大量に牛乳を飲むグループではインスリンの分泌が低下し、かつ、インスリン抵抗性が低下した(2p143)。
インスリン成長因子が癌を引き起こす
インスリン成長因子−1(IGF−1)は、細胞や組織の成長を促すホルモン物質だが、正常な細胞だけでなくガン細胞の成長も促す(2p111)。
IGF−1は巨大なたんぱく質分子であるため、そのままでは腸を通過しない(2p111)。けれども、2009年になされた研究では、理由はまだ不明だが、牛乳や乳製品を摂取するとIGF−1の血液中の濃度が上昇することが判明している。そして、過去40年の研究から、IGF−1の血液中の濃度が上昇すると前立腺ガン、乳がん、卵巣癌のリスクが高まることがわかっている(2p112)。
牛乳はパーキンソン病を引き起こす
脳の病変によって運動神経に障害を起こすパーキンソン病は、モハメド・アリやマイケル・フォックが罹病したことで有名になったが、米国の男性13万人を対象とした9年間の追跡研究から、乳製品を多く摂取すると最も摂取しない場合に比べ、パーキンソン病を発病するリスクが80%も高まることが判明した(2p144)。
牛乳の高カルシウムが引き起こすミネラル欠乏
牛乳を飲んでも骨は丈夫にならない
ミネラルやビタミンを多く含む食べ物を多い順に並べると、新鮮な野菜、魚介類、グラスフィードの肉類、全乳、全粒粉の穀類、ナッツ類となる(2p139)。すなわち、乳製品は以外に栄養価が高くはない。必要なビタミンDを牛乳で摂取しようとすると167杯も飲む必要がある(2p140)。
牛乳には多くのカルシウムが含まれるため、牛乳を飲めば骨が強くなると言われてきた(2p140)。けれども、2007年に米国では17万人の女性と6万8000人の男性を対象に大腿骨の骨折に関して分析調査がなされたが、カルシウムを多く摂取しても骨折になんら治療効果がないばかりか、カルシウム・サプリメントを摂取することでむしろ大腿骨の骨折リスクが高まることが判明した。
2010年に19万5000人の女性と7万5000人の男性を対象とした追跡調査からは、大量に牛乳を飲んでも大腿骨の骨折を予防できず、逆に牛乳を飲まなくても骨折のリスクが高まらないことが判明した(2p140)。
高濃度カルシウムが鉄や亜鉛の吸収を阻害
そして、牛乳やチーズに含まれる高濃度のカルシウムは鉄や亜鉛の吸収を阻害する。牛乳にはカルシウムが多く含まれるから良いわけではないのである(2p82)。
高濃度カルシウムがマグネシウム不足で心臓のリスクを高める
1993年に世界40カ国でなされた疫学調査から、心臓病や血管の病気と最も関連性が深い食品と成分が、牛乳と牛乳に含まれるカルシウム、たんぱく質、脂肪成分であることが判明した。
2010年にニュージランドのオークランド大学でなされた研究でも、カルシウムのサプリメントによって心筋梗塞のリスクが高まることが判明している(2p142)。
牛乳や乳製品のカルシウムとマグネシウム比は5:1である。そして、マグネシウムには、血液中の脂質を改善し、不整脈を予防し、慢性炎症を低下する働きがあるが、高濃度のカルシウムが心臓や血管に悪影響を与えるのは、心臓を保護するこのマグネシウムの濃度を下げてしまうためである(2p142)。
牛乳に含まれる異性化糖や汚染物質
ヨーグルトやチーズは健康か
牛乳100gには5gと乳糖が含まれているため糖質が多い。けれども、チーズにすれば発酵途中に消失するためチーズの糖質はほぼゼロである(3p180)。地中海周辺やアジアの草原地帯では、乳糖に耐性がないが、チーズやヨーグルトといった乳製品であれば食べられる人たちがいる。彼らは、乳糖を消化、すなわち、発酵させる仕事を他の生物、細菌に「外注」することにした。このため、発酵を経た乳製品からビタミンD等の栄養を摂取できている(4p100)。
異性化糖は糖化最終産物を激増させる
けれども、例えば、市販のヨーグルトには異性化糖、人工甘味料、人工着色料等の添加物がかなり混ぜられている(2p174)。異性化糖(ハイフルクトース、コーンシロップ)の主成分、フルクトースそのものには糖化最終産物(AGEs=Advanced Glycation End Products)はほとんど含まれていない。けれども、血液中に入るとグルコースの10倍もAGEを発生させることがわかっている(2p178)。
2010年にチリ大学でなされた研究からは、新生児の血液中のAGEが母親と同じレベルになることが明らかにされた。これは、母親の血液から胎児にAGEが入り込んでいることを示唆する。
また、乳幼児用のミルクの50%近くは砂糖で、これにも異性化糖が大量に含まれている(2p179)。その上、家畜飼料のトウモロコシや大豆は遺伝子組換え作物となっている(2p169)。除草剤や抗生物質、成長促進ホルモンが脂肪に蓄積している(2p170)。こうした観点からも母乳で育てることがいかに重要であるかがわかる(2p179)。牛乳を飲めば健康になるというのは、乳製品業界が作り上げた「神話」にすぎなかったのである(2p141)。
【画像】
フランク・オスキー小児科部長の画像はこのサイトより
【引用文献】
(1) アランナ・コリン『あなたの体は9割が細菌』(2016)河出書房新社
(2) ア谷博征『原始人食が病気を治す』(2013)マキノ出版
(3) 渡辺信幸『日本人だからこそ「ご飯」を食べるな』(2014)講談社α新書
(4) ジョン・レイティ他『GO WILD野生の体を取り戻せ!』(2014)NHK出版