ベジタリアンは身体に良いのか?

必要な栄養素を取り、不必要な栄養素を取らないことが健康

watanabe.jpg 本当にヘルシーな食事とは、何か。渡辺信幸(1963年〜)医師によれば、身体が必要とする栄養素を取り、必要とはしない「非必須栄養素」の摂取を控えることである。それは、たんぱく質や脂質を十分に摂取して、糖質を控えることである(2p7)。渡辺医師は適切なバランスの食事を糖質15〜20%、脂質40〜55%、たんぱく質30〜40%と考えている。これは高雄病院の江部康二(1950年〜)医師が提唱する「スーパー糖質制限食」の糖質12%、脂質56%、たんぱく質32%とほぼ一致する(2p174)。そして、この食事を肉・卵・チーズの頭文字をとって「MEC」と呼ぶ(2p7)。例えば、普通の食事をしていると1日に405gもの糖質を摂取することになる(2p23)。一方、MEC食での糖質摂取量は30〜60gである(2p35)

 渡辺医師はこれまで3000人以上に対して、この食事の指導を行い、90%以上でダイエットを成功させる等の成果をあげてきた(2p8,2p28)。もちろん、MECも糖質制限と概念的には同じである。ただし、糖質制限が糖質を控えることに光を当てているのに対して、MECではたんぱく質と脂質を摂取することに着目する(2p25)。毎日の必要摂取量は、肉を200g、卵3個、チーズ120gである(2p26)

肉食は問題か

 もちろん、肉食を大量に食べることによる副作用はある。たんぱく質は体内で消化・分解されるが、その分解過程でアンモニアが発生する。アンモニアは毒性が強いために、肝臓で無害化されてから尿素等として排泄される。そこで、肝臓の細胞が壊れて硬くなる「肝硬変」の末期でこの作用が働かなくなると、無害化が進まず、アンモニアが体内で蓄積されて、痙攣や振戦(しんせん=意志とは無関係に生じるリズミカルな細かい震え)、意識障害(肝性脳症)が生じ、最悪の場合に死に至る。けれども、総エネルギー量の35%ぐらいが肝臓の処理能力のリミットとされている(1p58)。高たんぱく質食は腎臓に負荷をかけるのでよくない」とよく言われる。けれども、総エネルギーの20%以上を摂取しても腎臓に持病がない人であればまったく影響を及ぼさない。事実、イヌイットは総エネルギーの95%以上を肉類から摂取しているが腎臓に障害は起こっていない(1p59)

 また、以前にはプリン体を多く含む肉食によって、血液中の尿酸が増加する高尿酸血症、すなわち、通風が引き起こされるとされてきた(1p59)。尿酸はプリン体から作られるため、プリン体が多い食事が原因とされたのである。けれども、実際には、体内で合成される量の方が多く、摂取量はたいして問題ではないことがわかってきた。しかも、12人の痛風患者を対象に、高たんぱく質、低糖質の食事療法を行ったところ、7人は血液中の尿酸値が正常化し、通風の発作も著しく減少した。肉類を食べた方がむしろ尿酸値は健全化するのである(1p60)。 

狩猟採集が農業に変わり、栄養素で不十分となった

 狩猟採集民たちは、大型動物からシロアリに至るまで無数の種類の獲物からたんぱく質を摂取していた。ビタミン、ミネラル、食物繊維、フィトケミカル(植物栄養素)等を豊富に含む100種類以上の植物やベリー類を摂取していた(1p40,1p77)

 けれども、氷河期が終わり温暖化によって食料確保が厳しくなる。筑波大学の西田正規名誉教授は、『人類史のなかの定住革命』(2007)講談社学術文庫でこう述べている(1p40)

 「氷河が後退し草原や疎林に代わって温帯性の森林が拡大してくれば、有蹄類は減少するし、それまでの視界の開けた場所で発達してきた狩猟技術は効果を発揮しなくなる」(1p41)

 氷河期にはハシバミ、クルミ等、脂肪を多量に含んだ栄養価が高い優れたナッツが多くあった。けれども、後氷期の温暖化によってクリ、ヒシ、ドングリ等のデンプン類のナッツや小麦や大麦等のデンプン質の種子が増える。こうして定住生活への移行と共に肉中心から穀物中心への食の転換も起きる。

 人類学者のマーク・N・コーエン(Mark Nathan Cohen)は、著作『健康と文明の人類史』(1994)人文書院で、こう指摘する(1p41)

「主要食料となり、止むを得ず手にすることになった食料は、エネルギー源以外の栄養素は特に豊富ではなかった。肉と比較してみても、あるいは現代の狩猟採集民の食用となるバラエティのある野生植物と比較しても、これらはたいていたんぱく質、ビタミン、ミネラル源としては不十分なのである」(1p42)

ビーガンには健康上の問題がある

 米国では2008年時点で、全国民の約3.2%にあたる730万人がベジタリアンで、0.5%にあたる約100万人が完全菜食主義者、ビーガンだとされている(1p148)。玄米菜食やマクロビオティックには健康に良いイメージがある(1p174)。桜沢如一(1893〜1966年)のマクロビオティックは、現在のヘルシー思想に通じるものがある(2p140)。桜沢が穀物菜食の理論を完成させ、初めての講習会を行ったのは1928年である。一方、宮沢賢治(1896〜1933年)も厳格なベジタリアンであった。「雨ニモマケズ」は1931年頃の作とされる(2p142)

Hiroshi-ShibataS.jpg けれども、2009年に20〜89歳までの6万4234人(うち、3万3883人がベジタリアン)を対象に比較した研究では、血管障害を含めて、あらゆる病気に差がないことが明らかにされている(1p149)。それどころか、ベジタリアンやビーガンには懸念される問題がある(1p149,1p174)。例えば、日本応用老年学会長、桜美林大学の柴田博(1937年〜)名誉教授も著作『肉を食べる人は長生きする』の中で、粗食や菜食、小食が人を健康にするとの考え方に対して「これほど人の健康や長寿に有害な思想はない」として警告する(2p119,2p139)

カロリー説の不思議と新たな貧困

Benjamin-Caballero.jpg 炭水化物は1gで4kcal、脂質は1gで9の熱量を生み出すとされている。けれども、カロリーとは一定量の水をどれだけあげられるかという物理的な数値にすぎない。これが、人体での化学エネルギー反応に準用されているのである(2p98)。燃えやすい脂質の熱量が高いとしても、例えば、1000kcalの食品を食べれば、そのすべてが1000kcalとして体内に吸収されるという前提は不自然である。900や800しか吸収できない人もいるはずである(2p103)。小児科医、ジョンズ・ポプキンス大学のベンジャミン・カバレロ(Benjamin Caballero)医師は、ブラジル・サンパウロのスラム街で、栄養失調の子どもを抱く母親の多くが肥満であることを目にする。ブラジルの貧困層は所得も低く十分な食事ができないが、それでもおしなべて肥満なのである。ここから、摂取カロリーと肥満との間に相関関係がないと示唆する(2p101)。すなわち、開発途上国では食事の絶対量が不足しているが、先進国も食事の量は足りていても、必要な栄養素が不足しているのである(2p119)。玄米、野菜、食物繊維、ミネラルをキーワードに健康のためにカロリーに気配りをし、粗食と菜食を実践した胃腸を崩してしまう人も多い(2p118)。柴田博名誉教授は、この「新型栄養失調」に着目し、血中総コレステロール値が160r/dl未満が問題であると指摘する(2p119)

たんぱく質と必須アミノ酸

必須アミノ酸は肉から摂取しないと効率が悪い

 ここで、人間が必要とする栄養素を整理しておこう。たんぱく質は、身体の骨格や筋肉、皮膚、内臓等、あらゆる組織を構成する材料で、人間が生きていくために欠かせない(1p53)。たんぱく質は、20種類のアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン)が結合した物質で、体内で分解されて再合成される(2p90,2p176)

 うち、9種類(フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニン=風呂場椅子を独り占め)は体内で合成できなかったり、ごく量が少なく必要量を満たせないために食事から摂取する必要がある。このように食べ物から摂取しなければならないアミノ酸のことを「必須アミノ酸」と呼ぶ(1p54,2p89,2p177)

 また、各たんぱく質に、人体を構成するアミノ酸がどれだけ含まれているのかを「アミノ酸スコア」と呼び、それが満点の100に近い程、その食品は良質であることになる(2p90,2p178)。大豆にはたんぱく質が豊富に含まれ、アミノ酸スコアも高い。つまり、植物質の中では最も優れた食品といえる。とはいえ、肉と比較するとやはり貧弱感が否めない(2p215)。一方、白米のアミノ酸スコアは必須アミノ酸のうち8種類は100をクリアしているものの、リジンだけが60と飛びぬけて少量でバランスが取れていない。ドネベックの『桶理論』によって160以上もあるメチオニンやバリンも60しか吸収されないため無駄になってしまうのである(2p178)

 現代の典型的な食事では、動物性たんぱく質は、全摂取エネルギーの15%を占めるにすぎない(1p53)。けれども、こうした「必須アミノ酸」は、肉類、魚介類、卵等の良質なたんぱく質から摂取する必要がある(1p54)

 例えば、胆汁酸の分泌を盛んにし、肝臓の働きを助け、肝細胞の再生を促進し、血管、筋肉、中枢神経、網膜、細胞膜を安定化させるために欠かせない必須物質に「タウリン」がある(1p531,1p162)。タウリンは肉類には含まれるが植物質には含まれない。このため、米国でビーガンを調査した研究では、タウリンが欠乏していた(1p163)。すなわち、豆腐等でたんぱく質が十分に摂取されていることから、動物性のたんぱく質が不要だと考え、肉を食べないと栄養欠乏状態を引き起こす(1p54)

脂肪酸は肉や魚介類から摂取する必要がある

脂肪酸も炭素変換が必要

 また、細胞膜を構成する脂肪酸は、炭素、水素、酸素から構成される化合物だが(1p53)、結合の仕方によって炭素原子の数が異なる。肉類に含まれる脂肪酸の炭素原子数は22と20だが、植物に含まれる脂肪酸は18である。このため、植物から摂取された18しかない脂肪酸を体内の酵素によって22と20の脂肪酸に変換することが必要となる。けれども、人間はネコ科の動物と同様にこの酵素がほとんど働かない。このため、肉を摂取することが必要である(1p54)

ビーガンではEPAやDHAが不足する

Juichi-YamagiwaS.jpg 霊長類学者、京都大学の山極寿一(1952年〜)教授は、著作『家族進化論』(2012)東京大学出版会でヒトの脳の成長を支えているのは、脂肪酸であると指摘する。3kgで生まれたヒトの新生児が離乳時にも20kgにしか成長しない一方で、ゴリラの新生児は2kg以下で生まれ離乳時には20kgに達している。この違いは、体脂肪率にある。ヒトの新生児の体脂肪率が25〜30%もあるのに対してゴリラは5%しかない。5歳以下のヒトの子どもは摂取エネルギーの45〜80%を脳の成長にまわしているが、それを支えているのは脂肪なのである(1p34)

 また、脳の成長・発達には、長鎖脂肪酸、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が欠かせない。動物の骨髄、脂肪組織、魚介類はエネルギー源が豊富で、かつ、それが豊富に含まれている(2p34)

 油脂ではオメガ3とオメガ6とのバランスも必要である。オメガ3系の脂肪酸はアマニ油、紫蘇油、大麻油等のアルファ・リノレイン酸から摂取できる。けれども、人間は肉食中心に遺伝子がシフトしてきたため、アルファ・リノレイン酸からEPAやDHAに変換する酵素が十分に働かない。このため、ベジタリアンやビーガンではEPAやDHAが不足し、調査からも血液濃度が低下していることが判明している(1p162)

グラスフィードの肉の脂肪でないと危険

 さらに、穀物で飼育された家畜の脂肪には、炎症を促進するオメガ6が大量に含まれている。飼育場で育てられた家畜肉は霜降りと呼ばれるように脂肪が大量に含まれている。これは、人間で言えば糖尿病やメタボリックシンドロームの末期症状にあたる。屠殺される時には、糖尿病性の白内障のため目が見えず、末梢神経障害のため自力ではほとんど立てない状態にまでなっている。さらに、家畜飼料のトウモロコシや大豆は遺伝子組換え作物となっている(1p169)。除草剤や抗生物質、成長促進ホルモンは脂肪に蓄積している(1p170)

ビタミンのバランスの問題
Loren-Cordain.jpg
 2005年に、パレオダイエット運動の提唱者、コロラド大学のコーダイン(Loren Cordain,1950年〜)教授らは、米国民で政府が奨励する摂取量に達していない13の栄養素について発表した。教授が指摘する欠乏している13の栄養素とは、以下の通りである。

 ビタミンに関しては脂溶性ビタミンA、水溶性ビタミンB1、B2、B3、B6、B12、C、葉酸。そして、ミネラルに関しては、多量ミネラル(Ca、Mg、P)と微量ミネラル(Fe、Zn)である(1p139)

 まず、ビタミンについてみていこう。ビタミンは有機化合物で、脂溶性ビタミンA、D、E、Kと水溶性ビタミンB1、B2、B6、B12、C、葉酸、パントテン酸、ピオチンがある(2p93,2p172)。ビタミンではまず欠乏が問題となる(2p93)。また、脂溶性ビタミンは肝臓に蓄積するため過剰摂取は問題であるが、水溶性ビタミンの方はいくら摂取しても尿から排泄されてしまうために問題がない(2p92)

ビタミンA ビタミンAは感染症予防に効果がある。また、粘膜に欠かせない必須栄養素で、これが不足するとドライアイとなり、最悪の場合、失明する危険性がある。ビタミンAは、ベーターカロチンの元になる物質から摂取されて肝臓で合成される。そして、動物性の食品では肝臓等、内臓に多く含まれている。けれども、現代食は穀物中心であり、野菜や果物、内臓の摂取量が少ない。このため、ビタミンAも必然的に不足する(1p78)

ビタミンB ビタミンBは、穀類に多く含まれているイメージがある。けれども、肉類、野菜、果物に比べると少ない。そのうえ、肉類では摂取した量が100%吸収されるのに対して、植物では5分の1程度しか吸収されない。これは、穀物や豆類には、ビタミンB群の吸収を阻害する「ピリドキシン・クロサイド」が含まれているためである。この働きによって約3分の2が吸収されなくなってしまうのである(1p79)

ビタミンB1 ビタミンB1が不足すると脚気が起こる(1p79)。脚気は1800年代後半に米が精米されるようになり、白米が主食になった時期に、日本や東南アジアで流行するようになった病気である。これは糠に含まれるB1が精米のプロセスで削り落とされたからである。

 とはいえ、ビタミンB1は豚肉、ウナギ肉等にも豊富に含まれている。このため、肉類を食べていれば脚気は起こらない。わざわざビタミンB1が少ない玄米を食べる必要はない(1p80)

ビタミンB3 ビタミンB3(ナイアシン) とアミノ酸「トリプトファン」不足すると、下痢、皮膚炎、脳の慢性炎症(認知症)が引き起こされる病気「ペラグラ」が生じる。ペラグラは、トウモロコシを主食とする南米で多発したが、これも農業革命以降のことである(1p79)。なお、ビタミンB3の吸収は後述するフィチン酸によって阻害される(1p165)

ビタミンB6 ビタミンB6(ピリドキシン)は、神経伝達物質や赤血球の生成、免疫力の向上等の働きをしている物質である。このため、これが不足すると貧血、末梢神経障害、皮膚・粘膜異常、うつ病、肝臓がん等が起こる(1p158)

 肉類に含まれるビタミンB6は100%吸収される。けれども、植物に含まれるビタミンB6は、グルコサイド(糖とアルコールとの配糖体)と結合して存在しているおり、このグルコサイドがビタミンB6の吸収を75〜80%も妨げるために5分の1程度しか吸収されない(1p158)

 2006年にドイツで93人のビーガンを対象になされた研究調査では、その58%にビタミンB6不足が見られた(1p159)

 また、米国において9人の女性に植物性ビタミンB6が高い食事を与える実験がなされたが、その結果、18日後には血液中のビタミンB6の濃度が低下した。グルコサイドがその吸収を阻害したからである(1p159)

ビタミンB12が不足することで生じる様々な病気

ビタミンB12 ビタミンB12は1948年に発見された最後のビタミンB群の一つである(1p149)。ビタミンB12が不足するとアミノ酸「メチオニン」の代謝に障害が生じて、アミノ酸「ホモシスティン」が蓄積する。このホモシスティンは、認知症、脳卒中、心筋梗塞、血栓症、骨粗鬆症、出生異常、不妊を引き起こし、死亡率を高める(1p150)。また、アルツハイマー型認知症、鬱病、パーキンソン病、脳卒中等の脳神経の障害も生じる(1p152)

 例えば、ホモシスティンは血管の内側の細胞を傷つけ、慢性炎症を起こす。このため、血管が閉塞する。血液中のホモシスティン濃度が5μmol/l増えるごとに心臓や血管の病気のリスクが約20%高まることが報告されている(1p151)

 また、ホモシスティンは正常な骨の生成プロセスを阻害し、骨の破壊を加速化する。このため骨粗鬆症を引き起こす(1p153)

 ホモシスティンは卵子や精子を傷つけるため不妊の原因にもなる(1p153)。自然流産、難産、低体重児出産、出生異常を起こし、ビタミンB12が欠乏した妊婦から生まれた子どもには、成長障害や発達障害が認められている(1p150)

ビーガンではビタミンB12が不足する

 新鮮な生野菜や果物に含まれる「葉酸」は、アミノ酸や核酸の合成に不可欠で、この葉酸の欠乏によってもホモシスティンの濃度は高まる。けれども、葉酸欠乏よりもビタミンB12の欠乏によってホモシスティン濃度が高まる場合の方が認知機能に与える影響は大きい。ビタミンB12が欠乏した状態で葉酸を多く摂取するとホモシスティン濃度が高まってしまうからである(1p152)。そして、ビタミンB12は体内で合成できないうえ、植物には含まれないため、動物性食品から摂取するしかない(1p149)。したがって、ベジタリアンやビーガンの食生活では、まさに葉酸が多く摂取されビタミンB12が乏しくなってしまうのである(1p152)

 世界各地のベジタリアンとビーガンを調査した研究結果からは、彼らの血液中のホモシスティンの濃度が高いことが報告されている(1p150)

 例えば、231人のベジタリアン(卵と乳製品は摂取)と232人のビーガンを対象に、2010年になされたオックスフォード大学の調査では、ベジタリアンの24%、ビーガンの73%がビタミンB12欠乏症となっていた(1p149)

 世界で最も厳格なビーガンの食習慣がなされているのはインドで、人口の約31%に相当する3億6000万人が宗教上、伝統的な理由から厳格なビーガンの食習慣を実践している。このため、インドの心臓の血管の病気の発症率はどの他国よりも高い(1p151)

 ベジタリアン9420人、ビーガン1126人を対象になされた研究からも、肉を食べる人よりも骨折の危険性が高いことが明らかになっている(1p153)

 2009年にイスラエルでは不妊症の男性172人と女性232人を対象になされた研究によれば、男性の36%、女性の23%がビタミンB12欠乏症であった(1p153)

ビタミンC ビタミンC不足で、歯肉から出血が起こる「壊血病」は、古くは紀元前400年頃にヒポクラテス(Hippocrates, 紀元前460年頃〜紀元前370年頃)も指摘している。また、15世紀の大航海時代では乗船員に多発したことから「船乗病」と言われた(1p77)。ほとんど動物は体内でビタミンCを合成できる。けれども、人間はこの合成酵素を失っている(1p78)。したがって、ビタミンCの補給のために野菜は必要である(2p231)。ビタミンCは新鮮や野菜や果物に含まれている。このため、これらを摂取する狩猟採集時代には見られなかった。また、植物性の食物をほとんど口にしなかったイヌイットも魚介類やアザラシの肝臓・脳からビタミンCを摂取できた(1p77)。なお、渡辺信幸医師は、果物はそれほどビタミン類が含まれておらず、肉の方が多く含まれており、人間に必要な栄養素を摂取するためには、肉、卵、チーズを食べることが最も簡単であると述べる(2p230)。そして、アミン酸スコアが100である卵やチーズを加えてバランスを取り(2p178)、唯一不足するビタミンCをサプリを補っていれば理論上、MECだけでも必須栄養素はそろえられることになると述べている(2p180)

ビタミンD ビタミンDは骨の代謝だけでなく、慢性炎症を抑え、免疫力を高める効果を持つ(1p159)。カルシウムの吸収にはビタミンDが欠かせないが、穀類はこの代謝を阻害する(1p81,1p159)。そして、ビタミンDが不足するとガン、関節リウマチに代表される自己免疫疾患、筋力低下、心臓や血管の病気、U型 糖尿病が生じ、全ての病気で死亡率を高める(1p82)

 なお、2011年にイギリスで2107人を対象に行われたビタミンDの検査では肉食の人たちの数値が最も高く、ビーガンやベジタリアンが最低であった(1p159)

ミネラルの欠乏問題

 前述したとおり、2005年に、コロラド大学のコーダイン教授らは、米国民で欠乏するミネラルとして、多量ミネラル(Ca、Mg、P)と微量ミネラル(Fe、Zn)をあげた(1p139)。また、ミネラルに関しては、厚生労働省では、多量ミネラル(Na、K、Ca、Mg、P)と微量ミネラル(Fe、Zn、Cu、Mn、I、Se、Cr、Mo)の13元素を規定している(2p93,2p172)。ミネラルは過剰と欠乏がともに問題となるが(2p93)、ビタミンと同じくミネラル不足も農業以降に生じた問題である(1p80)

フィチン酸とキレート作用によるミネラル不足の問題

 ベジタリアンやビーガンの食事は、全粒穀物、マメ科の作物がなければ成り立たない(1p154)。けれども、穀物にはほとんどミネラルが含まれていない(1p80)。しかも、植物の種子は動物に食べられないように身を守るための防御因子を持つ(1p164)。その一つが、植物が身を守るために備えた毒、ミネラル分の吸収を阻害する「フィチン酸」である(1p154)。このフィチン酸は、鉄、亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウム等のミネラル、あるいはビタミン類とキレート作用によって固く結合する(1p81,1p154,1p164)。キレートとは、ギリシア語でカニのハサミの意味で、カニのハサミのように栄養素と強力に結びつく(1p164)。フィチン酸は土壌改良剤に使用されているほど強力である(1p166)。栄養素をどれだけ吸収できるのかを「生体利用効率」と呼ぶが(1p154)、フィチン酸が腸に入ると、他の養分が吸収されない事態も招く(1p165,1p166)。そして、人間にはフィチン酸を分解する酵素を持たない(1p165)

マメと玄米食ではミネラルが吸収できなくなる

 フィチン酸は、豆類、ナッツ、玄米、トウモロコシ、全粒小麦に多い(1p164)。玄米、全粒穀物、麩等の成分が残っている物質を食べれば食べるほど、ミネラルの栄養吸収阻害が起こる(1p165)。このため、あるマメ科植物の食べ物に豊富にミネラルが含まれていたとしても、そのミネラルは吸収できず、その利用効率は野菜や肉に比べて著しく低くなる(1p154)。したがって、二重の意味で穀物中心の食事はミネラル不足を招くのである(1p81)

 フィチン酸は熱処理をせずに25℃で24時間浸水しても20%程度しか除去できない。加熱処理後、10℃で浸水すれば42〜59%は除去できる。そして、最も効果的なのが発酵で56〜96%を除去できる(1p166)

 なお、卵の白身に含まれるたんぱく質「アビジン」は、フィチン酸と同様の抗栄養素である。水溶性ビタミン、ビオチンがこのアビジンと結合し、腸管からの吸収を阻害する。このため、生卵を大量に食べるとビオチンの欠乏症状が生じる。そこで、卵を生で食べる時には黄身だけを食べることが望ましい(1p171)

 肉類には鉄が含まれるため、狩猟採集では貧血は見られなかったが(1p81)、穀類では鉄不足が引き起こされ、出産時の女性の死亡率を高め、子どの学習能力を低下させる(1p81,1p156)。穀物、豆類中心の食事で貧血に悩まされる人々が世界では約12億人いるとされている。鉄不足で貧血となると感染症への抵抗性も弱まる(1p81)

亜鉛 肉類に含まれる亜鉛は穀物よりも吸収率が4倍もある。このため、狩猟採集では困ることはなかったが(1p81)、亜鉛不足による免疫力の低下、傷の治癒の遅延、糖やインスリン代謝の阻害、体内の参加を防ぐシステムがダメージを受ける(1p155)

 イラン等の中東では摂取エネルギーの50%以上が「タノク」と呼ばれる全粒小麦から作られたパンから摂取されている。それにはフィチン酸が含まれるため、亜鉛の吸収が阻害される(1p155)。この地域では成長障害、思春期の遅れ、生殖機能障害が認められる(1p156)

ヨウ素 ヨウ素の欠乏も深刻である。2003年にスロバキア共和国で30人のベジタリアン、15人のビーガンを対象に行われた研究によれば、25%、80%にヨウ素欠乏が認められた(1p157)

肉中心の食生活のメリット

たんぱく質を食べた方が空腹感が減る

 総エネルギーの20%以上をたんぱく質から摂取すると、インスリン抵抗性が改善され、血中脂質が改善され、メタボリックシンドロームや肥満が防止され、骨粗鬆症が改善され、筋肉が増強される(1p55)。たんぱく質の摂取量が増えるとダイエット効果があるのは、炭水化物や脂肪よりもたんぱく質の方が、はるかに視床下部にある満腹中枢を刺激し、満腹感が満たすからである。スウェーデンのカロリンスカ病院の研究では、食間でもたんぱく質は炭水化物よりも空腹感を感じさせないという。また、たんぱく質には、視床下部の哺乳類ラパマイシン標的たんぱく質を活性化させ、体重を減らす効果があることも知られている(1p57)

たんぱく質が基礎代謝を高める

 食品を消化、代謝するプロセスでもエネルギーが消費される。これをサーミック・イフェクトと呼ぶ(1p189)。食事をすれば胃腸で消化・分解された栄養素は吸収され、その一部は体熱となって放熱される(2p188)。食後に安静にしていても代謝量が高まる。これを「食事誘発性熱産生(DIT=Diet Induced Thermogenesis)」と呼ぶ(2p187)

 DITによって消費される熱量は通常約10%だが、その消費熱量は、栄養素によって異なり、たんぱく質だけでは摂取エネルギーの約30%となるが、糖質だけでは約6%、脂質だけでは約5%である。すなわち、たんぱく質では糖類の5倍もエネルギーが消費される。肉やチーズ、卵を食べるとじわじわと体温が高まることが感じられるが、実際、0.3〜0.5℃程度体温が高まる(2p188)。たんぱく質は代謝を高め、体脂肪が燃焼しやすい状態が作られる(2p187)

 つまり、放熱効果は栄養素によって異なり、タンパク質は炭水化物や脂肪よりも高い。高タンパク食は炭水化物中心の食事よりも24時間で12%も多くエネルギーを消費したとの報告もある。つまり、タンパク質が多ければ確実に減量効果がある(2p190)

たんぱく質中心の食事では味覚が改善され歯周病が治る

 アミノ酸が不足すると舌の味ライ細胞の新陳代謝が遅くなり味覚が鈍くなる(2p185)。このため、粗食や菜食を続けている人は、著しく味覚が劣化しているケースが多い。

 また、糖質過剰の食生活をしてきた人は、白く残った食べかすや菌、舌苔(ぜったい)が大量に付きやすく、さらに味覚も疎外されている(2p216)。MEC食を取り入れた歯科医の尾畑宏一によれば、高たんぱく・低糖質の食生活を続けると、舌苔やプラークがなくなって口の中がきれいになり、歯周病の改善も早くなると言う(2p217)

よく噛むと幸せホルモンが出る

 イスラエルの研究によれば、咀嚼することによって、体内にレプチン、ヒスタミン、セロトニンの神経伝達物質が分泌されるという(2p183)。ヒスタミンは満腹中枢を刺激して食欲を抑える働きがある。食事を始めてから満腹中枢が反応するまで20分かかると言われているが、30回は噛むことで大量の唾液が分泌され、ヒスタミンが分泌され、脳は満腹感を覚える(2p184)。また、ヒスタミンとともに分泌されるセロトニンも幸せホルモンと呼ばれ、精神の安定に寄与する(2p186)

三食にこだわらず腹が減った時に食べる

Hiromasa-Sakitani.jpg「朝食をきちんと食べましょう」という説があるが、一日に3食をきちんと食べる野生動物等存在しない(2p213)。そこで、1日3食にこだわらず、空腹感を覚えたときに食べればよい(2p27,2p213)

 渡辺信幸医師は朝食は食べない。ご飯、パン、麺類も一切口にしない(2p31)。スイーツも、卵や牛乳をふんだんに使った洋菓子にはたんぱく質と脂質が含まれているのに対して、砂糖や小豆ばかりの和菓子は栄養に乏しいため控えるべきであると述べる(2p36)

 ア谷博征(1968年〜)医師も、以前に粗食、玄米菜食、マクロビ等を試み、不自然な痩せ方や下痢を体験した(1p4)。そこで、今はパレオダイエットに日本の伝統的な発酵食を組み合わせた食生活を送っている(1p5)

【画像】
渡辺信幸医師の画像はこのサイトより
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【引用文献】
(1) ア谷博征『原始人食が病気を治す』(2013)マキノ出版
(2) 渡辺信幸『日本人だからこそ「ご飯」を食べるな』(2014)講談社α新書
posted by fidelcastro at 22:35 | Comment(0) | 脳と食 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする