科学では説明できない臨死体験

臨死体験

『チベットの死者の書』と臨死体験とでは、核となる体験の多くが共通している(p554)。

体外離脱
 第一は体外離脱である。臨死体験の多くは、心が肉体から解放されて体外離脱していることから始まる(p562)。上空から自分の身体を見下ろし、視覚や聴覚が研ぎ澄まされて意識は極めて明晰で鋭敏となる(p554)。これは、『チベットの死者の書』の「再生のバドル」の「意成身(いじょうしん)」の体験と酷似する(p562)。

親族と話が出来ない
 「再生のバルド」にある死者は、親族の姿を見たり話を聞いたりできるが、意思疎通ができないために欲求不満に陥る。これとまったく同じ現象がマイクル・B・セイボム(Michael B. Sabom,1944年〜)博士の『あの世からの帰還』日本教文社(1986)にも記載されている(p563)。

どこにでも移動できる力と透視能力
「再生のバドル」の「意成身」は、自分の黄金時代の肉体を持ち、超自然的な可動性と透視眼を有していると記載されている(p564)。臨死体験においても、壁を抜けて移動することができる(p554)。『あの世からの帰還』に登場する臨死体験者は、自分が20歳は若くなっていて、思考の力で瞬時に移動できたと述べている。レイモンド・ムーディ(Raymond Moody, 1944年〜)博士の『続・かいまみた死後の世界』評論社(1989)では、多くの臨死体験者が、すべてを知っているような透視眼的感覚を報告している(p564)。

他者との出会い
「再生のバドル」の「意成身」は、バルドの中で他の存在と出会うとしているが、臨死体験者も自分よりも前に死んだものと会話を交わすことが多い(p565)。

闇とトンネル体験
 死のバルドの溶解のプロセスの最終段階は「顕現近得」と呼ばれる暗黒の体験だが(p484,p556)、ここには至福と歓喜の瞬間があると教えは説く(p556)。コネティカット大学のケネス・リング(Kenneth Ring,1936年〜)教授は、著書『いまわのきわに見る死の世界』講談社(1981)で「それは虚無のなにもない状態でした。にもかかわらず、安らぎと幸福感だけは強くあり、だからこそ耐えられたのです」と語るある臨死体験をした女性を紹介している(p556)。

光の体験と慈悲と智慧
 『チベットの死者の書』では、暗黒の体験が終わった後、夜明けに日が昇るように「根源の光明」が立ち上るとされている(p484)。子どもたちの臨死体験を専門に調査してきたメルヴィン・モース(Melvin Morse,1953年〜)博士は『Closer to the Light』(1990)で「子どもたちでは体験者のほとんどに、大人でも約4分の1に光の要素がある」と述べ、体外離脱体験やトンネル体験の後、臨死体験の最終段階において光が現れたとの体験を紹介している(p558)。光の体験は『あの世からの帰還』にも見られ(p559)、『いまわのきわに見る死の世界』でも「この光は心の安らぎを与え、眩しくはなかった」との証言が紹介されている(p559)。マーゴッド・グレイ(Margot Grey)博士は『Return from Death』(1985)において、この光が伝えるものは純粋な真実の愛だけであると述べている(p558,p561)。全知全能と思われる光の存在の前で、人は走馬灯のように過去の人生を回顧し、これまで行って来た善行や悪い行為のすべてを再び見ることになるが(p554)、この全生涯のパノラマ的な回顧は、まさにカルマの不可避性を示している(p574)。そして、光の存在とテレパシーで交信するが(p554)、その主なメッセージはブッダの教えやバルドの教えとまったく同じであり、人生において最も本質的で寛容なことは、哀れみの心、慈悲と智慧だというものなのである(p574)。

天国と地獄
「再生のバドル」の「意成身」は、多様なビジョンを目にするが、(p566)、臨死体験者もこの世ならぬ美しく光に輝く街、妙なる音楽が奏でられた世界、天国といったビジョンを目にしている(p555,p566)。
『続・かいまみた死後の世界』や『Return from Death』には、こうした記述が見られる(p567)。
 「再生のバドル」では、低い世界に転生しかかっているものは、上方ではなく下方に旅をしているような感覚を味わうが、臨死体験においても、ポジティブな体験だけでなく、恐怖、パニック、孤独、悲哀といった体験が見出せる。『Return from Death』では「私は深淵を見下ろしていた。手や腕が伸びて、わたしを捉まえて引きずり込もうとした。絶望に満ちた悲嘆のうめきが聞こえた」(p568)「わたしは地の奥深くまっすぐに堕ちていった。怒りと強烈な恐れだけがあった。何もかもが灰色だった。狂った野獣が唸ったり、歯ぎしりしているような恐るべき物音が聞こえた」(p569)といった地獄のビジョンとしか呼べないような体験が証言されている(p568)。『続・かいまみた死後の世界』では、現世への執着、所有物や肉親、習癖へのこだわりを捨て切れず途方に暮れた人々に存在に出会ったとの報告がなされている(p569)。

境界と現世への帰還
 臨死体験では、ここから引き返すことができない境界線に到達し、光の存在に自分の肉体に戻るように指示されたり、自ら現世に戻ることを決心している(p555,p570)。この世でまだ達成されていなかった人生の目的を達成するためにである(p555)。
 チベットでは「死から甦った者」を意味する「デーログ」と呼ばれる人々がいるが、この報告も臨死体験と類似する(p571)。デーログには一人の神が付き添い、彼らを守護し、目の前で展開していることについて説明する。そして、仏国土や浄土、地獄界を旅し、修行と利他心のある生き方を生者に説く閻魔大王のメッセージを携えて自分の肉体に戻るのである(p571)。いまもヒマラヤのチベット文化圏においてはデーログの伝統が続いているが、その役割は、生者と死者とのメッセンジャーを務めることにある(p573)。ケネス・リング教授は、臨死体験をより高度でより尊い精神的なリアリティを語る希望のメッセンジャーとして見なすが、この見解と重なる(p579)。

臨死体験後の意識の変容
 ディンゴ・キェンツェ・リンポチェ(Dilgo Khyentse Rinpoche, 1910〜1991年)によれば、臨死体験とは、意識がただ死んだ人間から離れ、一時的に様々な世界を彷徨ったにすぎず、その現象は「現世の自然なバルドに属している」と解釈するのが正しいという(p573)。バルドの入口には立ったものの、そこに足を踏み入れることなく戻って来た人々なのだという(p574)。とはいえ、臨死体験において最も重要なことは、体験者が死に対する恐怖心を失うだけでなく、死そのものを恐れなくなり、より愛情深く、忍耐強くなり、特定の宗教にではなく、人類共通の精神的な価値観や智慧に興味を抱くようになることである(p555)。
 そして、臨死体験後にクンダリーニの上昇らしきものを体験したり、驚くべき透視能力や精神的・肉体的癒しの力を発揮しだした人も報告されているのである(p575)。

現在の科学では臨死体験は説明できない
 メルヴィン・モース博士は「何世紀も臨死体験は存在してきたが、患者を甦らせるだけの医療技術を有するようになったのはここ20年のことである。皮肉なことに臨死体験が数多く報告されるようになったのも、医療技術のおかげなのだ。今日の医療には心が精神性が欠けている」と述べている(p578)。
 還元主義の科学者たちは、臨死体験を生理学的、化学的、心理学的な見地から説明しようと試みてきたが、こうした研究者自らが自分の仮定を否定せざるを得なくなり、臨死体験を説明できないことを認めるようになっているのである。
 臨死体験の第一人者、バージニア大学のブルース・グレイスン(Bruce Greyson,1946年〜)名誉教授は、こう述べている(p577)。
「科学は臨死体験を理論づけるべきである。現時点での科学の到達地点を超えた現象を説明しようとすることによってのみ、新たな科学的秩序が産み出せることを歴史は示している。臨死体験は、新たな科学的秩序を科学者に産み出させる謎のひとつだと考えている。こうした知識の源には、知的な論理的演繹法や物理学上の経験的観察法だけではなく、直接的な神秘体験も含まれている」(p579)。
【画像】
マイクル・B・セイボム博士の画像はこのサイトより
http://www.ngpg.org/dr.-michael-sabom-joins-northeast-georgia-physicians-group-cardiology
レイモンド・ムーディ博士の画像はこのサイトより
http://soulpassages.ca/afterlife-awareness-conference/
ケネス・リング教授の画像はこのサイトより
http://www.kenring.org/
メルヴィン・モース博士の画像はこのサイトより
https://conference.iands.org/speakers/
マーゴッド・グレイ博士の画像はこのサイトより
https://i.ytimg.com/vi/UivMV7wDhoo/hqdefault.jpg
ディンゴ・キェンツェ・リンポチェの画像はこのサイトより
http://www.lotusspeech.ca/teachers/dilgo-khyentse-rinpoche/
【引用文献】
ソギャル・リンポチェ「チベットの生と死の書」(2010)講談社α文庫
posted by fidelcastro at 18:22 | Comment(0) | 終活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする